各界の第一線で活躍する著名人へのインタビューによる連載コラム“エドックス ラヴァーズ”。プロフェッショナルな仕事へのこだわりや、彼らの愛用ウォッチなどに迫ります。今回は、彩り鮮やかなビジュアルと繊細な味わいから、撮影現場でその料理を目にした女性モデルや女優たちのSNSなどを発信源として一気に人気が広まった料理人の寺井幸也さんです。先日、カメラマンでもあるパートナーの中川司さんとともに世田谷区の同性パートナーシップを第1号として宣誓したことでも話題に。

自然の恩恵を感じながら、彩りと素材を活かす

「幸せ料理人」という肩書きを選んだ理由は?

肩書きを選んだ理由の一つは、「幸也」という漢字の「也」が「せ」に似ているので「幸せ」と読めるという洒落心。もう一つは、料理でその場を「幸せ」にしたいという思いです。特に、外食でもホームパーティでも人が集まって食事をする場合は、そこに集まる何らかの目的がありますよね。例えば、記念日だったり、誕生日だったり。僕は、そんな食の向こう側に横たわるストーリーを、少しでも自分の料理でプラスアルファしたい。料理を提供したときに、見た目で場が華やいだり、あるいは会話がさらに弾んだり、そういうお手伝いができたら「幸せ」だなと思うんです。

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色鮮やかで美しい料理ですね。そこに込めた思い、こだわりは?

僕が大事にしているのは、場に即した料理ということ。コミュニケーションの中心になるよう心がけています。意外性はあるけれど、実際口にすると「めっちゃ合う」というものが多い。自分もお酒は好きなので、意外なペアリングなども積極的に提案します。 色彩に関しては、ファッション誌「WWD」を愛読するような中学生だったというお洒落好きなんです。それに、鳥のビジュアルがすごく好き。世界の鳥の写真がアップされているインスタグラムのアカウントをめっちゃフォローしています(笑)。特に南国の鳥たちは、自分の想像では及ばないような意外な組み合わせが多い。その美しさは本当に参考になります。自然界の色というのが大事で、料理自体にケミカルなものを用いたくないので、いかに自然な色合いで鮮やかに見せるか、という僕のテーマにも合うんですね。味についても食感と香り、温度のバランスをとります。調味料は最小限にして素材を生かした味わいをとにかく心がけて。そして、皆が真似しやすいということも重視していますね。

料理を始めたきっかけは?

祖父が寿司職人で実家が民宿。常に祖父が包丁を研いでいたりとか、刺身をおろしていたりとか、小さい頃から見ていたので、料理をすることは当たり前、という空気があった。物心ついたころには、自分の名前が彫られた柳包丁があったほど(笑)。でも、誰も教えてくれたわけじゃなくてすべて独学。夕食どきは家族が仕事をしている真っ最中なので、小学3年、4年のころには、兄弟のご飯は僕が作っていましたね。兄と弟と僕の三兄弟。兄は、家業を手伝うバイトもしていたので、必然的に僕が料理当番に。弟は洗濯当番(笑)。母親が材料だけ置いて、今日もよろしくねって出かけてました。毎日作るものなので同じだと飽きちゃう。日々変化をつけるなかで、レパートリーも増えていきました。 この仕事をするまでも飲食店は経験しているんですが、実はそのどれもがフロア。店での修業というのはないんですが、そうした幼い頃からの料理の経験が、技術やアイデアの源ですね。だから、何料理?と聞かれると、必ず「家庭料理」と答えています。

ハッピー組なので、僕らなら喜んで表舞台に立てる

パートナーシップ宣誓にいたるまでの経緯は?

4年前に上京するまでは遠距離恋愛をしていました。直前に彼から上京の誘いがあったのですが、彼が年上ということもあり、仕事も持たずに恋愛至上主義でそのまま転がり込むというのが嫌だったんです。それが、彼との人生を真剣に考えるきっかけに。結局、僕は料理人という道を歩みながら、彼とともに生きていこうと答えを出しました。ただ、上京して一緒に暮らしてみて、何かしら形がほしいなと思っていたんです。
そんな矢先に、立て続けに同性のパートナーシップに関する取材を受けることになりました。一番大きなものは、日本テレビ系報道番組「バンキシャ!」さんです。密着取材のなかで、それまで伏せていた実家の両親にカミングアウトするものでした。今でこそ、家族として仲良く付き合っていますが、僕らの関係性を理解するのは難しいのだろうと推察しながらも、丁寧に時間をかけて説明し、理解してもらいました。
その最中で、渋谷区に続き、僕らの住む世田谷区も同性パートナーシップの宣誓を受け付けるという話がでて、ならば1番目に。ということで宣誓することに。それまで、世田谷区でこの試みを実現するために動いていた多くのLGBTの方たちとも多く接しましたし、区長とも話しました。その中にも、職場や家族にカミングアウトもできないような人さえいるなかで、僕らは比較的ライトですし、メディアにも出ている。いわば「ハッピー組」。料理人とカメラマンで職業柄も表に出やすい。そこで、広告塔を喜んで引き受けたのです。

宣誓を認定されてみていかがでしたか?

法的な効力があるわけじゃない。ただそれがなければ、僕らは単なるゲイカップル。宣誓書があれば、男性二人でも部屋を借りやすいとか、保険でも、そうしたパートナーシップに対応したものも生まれているそうなので、実生活での助けも多いでしょうね。実際、僕らもこの件があり、大家さんからの評価も高かった。
そして何より大きいのは、精神面です。僕らは、彼の元相方であるロンドンブーツの淳さん(元相方が中川司さん)に司会までしてもらい盛大に結婚式を挙げることができました。異性間の結婚と変わらないような、絆の深まりは感じています。家族、親戚、友人まで巻き込んでいるので、別れるのだって簡単じゃないですしね(笑)。

寺井幸也氏イメージ

料理と時間の密接な関係

エドックスの時計を日常使ってのご感想は?

入手したのは、彼(中川さん)の仕事の関わりがあって、エドックスの「戸賀ッチ(=注:ファッションディレクター戸賀敬城さん)モデル」発表会に招待されたのに同行したのがきっかけです。そこで実施された「ベストドレッサー賞」を、僕のスタイリングで着飾った彼が優勝したんです。その商品が「クロノオフショア1」。まさにイベントの目玉をゲット。当時僕が時計を吟味している最中ということに加えて、誕生日間近ということ、そして、優勝したのは「スタイリングのおかげ」ということで、なんとプレゼントしてくれたんです!
パーティやイベントに参加することも多いので、セラミックスのベゼルがエッジも効いて、花があるこの時計は、ハレの場でも重宝しますね。
一方で、分刻み、秒刻みの作業が多い料理にも時計は欠かせません。時計を着けない料理人もいるなかで、僕は「着ける」派。この防水時計が役立っています。この撮影モデル「グランドオーシャン」もエレガントでいいですね。防水という点でも、僕の次欲しい時計の選択肢にガッツリ入りますよ。


寺井幸也
Profile

雑誌などの表紙やタイアップ記事の撮影現場で、女優や女性モデル、スタッフの皆さんに提供するケータリング業務やフードコーディネイトのほか、一流メゾンのパーティやイベント、企業のエキシビションなどでのメニュー提供。食にまつわる空間のプロデュース、飲食店のメニュー監修まで、仕事内容は多岐に。大手雑貨店LOFTの公式アプリや、大人の女性向けWebmagazine Nstyle で料理コーナーの連載を担当。著書に「幸也飯 彩り映える・おもてなしのつくりおき」も。

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Photography: Yoshinori Eto
Text :Masashi Takamura