各界の第一線で活躍する著名人へのインタビューによる連載コラム“エドックス ラヴァーズ”。プロフェッショナルな仕事へのこだわりや、彼らの愛用ウォッチなどに迫ります。今回は、日本サーフ界を飛び出して海外の大会も転戦し、2年連続でアジアツアーランク1位を獲得、今も国内現役の上位で活躍する田中樹選手です。
負けず嫌いが原動力、 日本一を求めて世界へ
湘南生まれ、九十九里育ちの田中さん。サーフィンとの出会いは?
まず、両親がサーファー。7歳のときに父親の転勤で茅ヶ崎から九十九里に。それをきっかけに、母親がサーフショップを始めたという経緯もあるので、自然な流れでサーフィンに。言い方は悪いですが、田舎なのでサーフィン以外に遊びがなかったかな(笑)。5歳くらいからは海に入っていましたが、自分の意思で「波乗り」を始めたのは7歳から。親のボードを借りたりして始めていました。
サーフィンにのめり込んだきっかけは?
とにかく負けず嫌い。なんでもいいから日本で一番になりたかったんです。始めた当時は、このエリアで僕以外に本格的にサーフィンをしている小学生はもちろんいなかったですし、これなら一番になれるでしょ? という安易な気持ちもありましたね(笑)。それと、子供時代は、野球やサッカー、スイミングなど、いろいろスポーツをやっていましたが、どれも正直熱くなれず、センスもイマイチ。日本一にはほど遠かったと思います。サーフィンに関しては、実際、中学生になると、バリやハワイなどで行われる世界選手権に出場できるようになり、日本一への手応えは感じ始めていました。
実際、プロサーファーになり、世界に羽ばたきましたね。
試合に勝ち始めると、次も勝ちたい、そしてその次、と欲が出てくるわけです。そうすると試合が面白くなってくる。アマチュアで勝ち続けたその先にプロの世界があったという感じ。負けず嫌いを原動力に、上へ、上へ、という向上心の賜物ですね。 プロになって2、3年目で日本一になれるチャンスを2回逃しているんです。2003年と2004年の2年間は、JPSAツアーランキング(注:国内プロツアー)がともに2位。一番を狙う僕に、2番手ほど悔しいものはなかった。それで、総合的な実力を身につけるために世界の経験が必要と考え、武者修行に出たわけです。言ってみれば、僕の場合は、世界で活躍したいというよりも日本で一番のための世界だったんですね。
オリンピック効果で、さらに注目を集めたい
サーフィンというスポーツで勝つためには?
波相手の実践練習や陸上トレーニングはもちろんですが、やはりメンタルは重要。自分の出番にどんな波が来るかはわからない。サーフィンの試合はスノボーなどと違い、ノックアウト方式。勝負所でミスできないプレッシャーに耐えて、平常心と緊張感を程よく保つ。 また、波を読む力も大切です。いい波を、相手選手よりも先に気づいてアプローチして、乗り切る。「いい波来なかった」と言い訳もできますが、絶対そうはしたくない部分。運の要素もありますが、考え方をコントロールすることでいい結果に結びつけていく、と。まぁ、言うは易し、行うは難しなんですけどね(笑)。
現在は、ジュニアのコーチもされていますね。選手との兼業は大変そうです。
はい、めちゃくちゃハードです(笑)。ただ、やりがいもすごく感じています。今、だいたい10人のジュニアを教えています。勝率が上がっていて、世界でもかなり戦えています。理由のひとつと考えるのが、僕が行っている独自のコーチング。例えば、「何分後に、右に波が来るからこの位置で待て」といった明確な指示を出して、試合中に岸から選手をコントロールするんです。波へのアプローチはより早いほうが有利。仮に、相手に2秒早くパドルをやられたら、もう追いつけません。 これは、選手としてこのようなコーチがいればな、あるいは、相手にこれをやられたら嫌だな、という僕の実感のフィードバックですね。僕しか取り入れてない理由は、波に対する指示に責任が取れるコーチがいないから。世界で転戦した経験が大きいですね。
2020年東京オリンピックのサーフィン会場が地元、一宮町の釣ヶ崎海岸、志田下ポイントに決まりました。いかがでしょう?
素直にうれしいです。千葉北というエリアは、日本で一番大会が催されるポイントですから、妥当な印象もありますね。今後は、サーフィンの魅力を伝えつつ、もっと注目を高めたいですね。ファンサーファーが増えている実情は、やはりいいものです。オリンピックに自分が出場するのは難しいですが、今教えているジュニアたちは、もう活躍できると思います。何人でも多く出場してもらって、願わくばメダルまで獲ってもらえたら最高ですよね。
サーファーにとって欠かせないのが腕時計です
サーファーにとって時間とは?
実際に、試合ではサーフウォッチというものを着けることが多いです。カウントダウンタイマーとタイドグラフがついているもの。これは、競技時間と潮の満ち引きを把握するため。また、波にはリズムがありますので、この間隔を時間単位で把握する必要もあります。練習するのにも、サーフィンにとって波がいいのは、早朝と夕方なので、やはり早起きも必要です。サーファーと時間というのは、密接な関係にあるわけですね。 そう言う意味で腕時計はとっても馴染み深い存在。もちろんサーファーですから、海は大好き。その意味で、試合では着けませんが、ダイバーズウォッチは、骨太で海を感じさせるデザイン。とっても格好いいと思っています。このエドックスも、海を感じさせるブルーを基調としているのも、僕好みです。
田中 樹
Profile
1983年神奈川県生まれ。日本プロサーフィン連盟公式プロサーファー。2000年よりプロデビュー。国内大会での活躍を引っさげ、海外転戦に参加。2005年、2006年は、2年連続でASPアジアツアーランキング1位を獲得する。 2009年にJPSAグランドチャンピオンを獲得し日本一に。2011年から国内ツアーに専念する一方、ジュニアのコーチングも開始。現在、川合美乃里選手や稲葉玲王選手、西慶司郎選手などを率いて、世界転戦中。
Photography: Yoshinori Eto
Text :Masashi Takamura